『いまさら、真空管アンプ?』の疑問に答えて
 三極真空管の発明は1906年、真空管アンプの初の生産は1917年、そして名球300Bの登場は1938年であり、電子部品、電子機器としては非常に古い歴史を持ちます。
 現在は技術革新のスピードが非常に速く、PC、携帯電話、デジタルカメラなど、僅か数年前の製品の多くは見捨てられていく運命にあります。
 では、古いものは全て消え去る運命にあるのでしょうか?
しかし、例えば長く古い歴史を持つ真空管アンプは一部の人に愛され続けています。それどころか、今は静かなブームにあると言っても過言ではありません。
 では、真空管アンプを愛する一部の人とは懐古主義のマニアだけで、一般の人にとって意味のないものでしょうか?
 私はこれらの疑問に対して次のように考えています。
技術士の使命は科学技術をもって社会の発展に貢献することです。
 では、『科学技術の発展』=『人類の幸福』でしょうか?
残念ながら全ての科学技術の発展が人類の幸福につながるわけではなく、私たち科学・技術者は自己の科学・技術が人類の幸福につながるように努力する義務があるわけです。(技術者倫理)
 人類の幸福につなげるには多種多様な方法がありますが、そのうちの一つが『文化の発展に寄与する』ことではないかと私は考えています。
 では、『電子機器は文化の器』になりえるのでしょうか?
『文化の器』とは時を越えて多くに人に愛されるものです。残念ながらPC、携帯電話、デジタルカメラは『文明の器』であり『文化の器』ではありません。
楽器や機械式時計、そしてライカの名で代表される機械式カメラのような『文化の器』と言えます。
 では、これらの『文化の器』になれる電子機器は存在するのでしょうか?
この素朴な疑問に答えてくれるのが真空管アンプではないかと思っています。

高精度計測技術の研究開発者がオーディオ技術にチャレンジすることの意義
 計測技術は最も早くからデジタル化が進んだ分野です。しかし、デジタル化が進んだとは言え、高精度化を追い求めていくとアナログ技術が性能の根本を決めます。高精度計測技術における重要な技術課題とは
 
入出力のインタフェース
 
入出力の直線性
 
情報伝達の高分解能
 
ノイズ対策
 
電源回路
などがあります。これらの計測技術での重要な技術的課題はオーディオ技術にとっても同じ事が言えると考えます。
 計測技術における「入出力のインタフェース技術」とは、被計測対象とセンサ、およびセンサと回路とのインタフェースに関するものであり、オーディオ技術では原音とマイク、もしくは録音媒体とピックアップ、およびプレイヤーとアンプ、そしてアンプとスピーカのインタフェースに対応します。
 計測技術における「入出力の直線性」は精度を決める重要な要因であり、オーディオ技術ではアンプの重要な特性の歪率を決めます。
 また、高精度計測技術においてもオーディオ技術においても20bits前後の高分解能が要求されます。この高分解能は他の分野ではなかなか見られません。
 温度、湿度などのセンサを用いた計測技術おいては低周波領域(数Hz〜数kHz)でのノイズ対策が非常に重要です。しかし、この低周波領域でのノイズ対策が非常に難しいものがあります。オーディオ技術においては、この領域でのノイズ対策が非常に重要であることは言うまでもなく、オーディー技術におけるノイズ対策に対する考えは高精度計測技術に非常に役立つと考えます。
 電源回路から生じるノイズ対策の重要性はどの分野でも共通したことですが、アナログとデジタル回路が混在する計測回路においては負荷の瞬時的な上昇に対する電源回路の過渡応答性が重要であり、同様なことがオーディオ回路にも見られます。

 すなわち、高精度計測技術とオーディオ技術では多くの共通する技術的課題が存在し、高精度計測技術における課題をオーディオ技術と言う異なる観点から見ることが出来ることは非常に有益ではないかと考えます
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主要特性
真空管 (12AT7, 12BH7A, 300B)*2 DF 20 (ON OFF法)
出力 10W*2 残留ノイズ 0.3mV
周波数特性 10Hz〜70kHz(-3dB) チャンネルセパレーション 80dB以上
歪率特性 0.08%(1kHz 1W出力時) 寸法、重量 43cm(W)*33cm(D)*24cm(H) 約20kg
長期エージング済み金属皮膜抵抗のアッテネータ型ボリューム採用 真空管保護用制御回路/真空管エージング機能採用
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スピーカ・システム
JBL L88 1970年

真空管アンプ
TZWRD 300BS2

CDプレイヤー
Accuphase DP-75
 最初の試作システムでは、300B真空アンプにはT社製の出力トランスを用い、SPシステムにはB&W MATRIX805、そしてCDプレイヤーにはDENON DCD-S10Uを用いました。この状態のシステムで知合いのピアニストの方に試聴をお願いしました。全ての領域で音が良く出ており、また、解像度も高いとの評価も頂きましたが、例えば、ピアノ・ソロの場合、小さいホールでピアノの近くで聞いている感じであり、年配の方がゆったりと音楽演奏を楽しむには、高音領域を少し抑え、低音がゆったりと出るようにし、演奏しているピアノから少し離れた所で聞いているように改良したほうが良いとのアドバイスを受けました。
 そこで、最終的な300BアンプにはI社製の出力トランスに変更した他、抵抗、コンデンサ、電源回路も一部変更し、SPシステムにはJBL L88 1970年を採用し、CDプレイヤーにはAccuphase DP-75を採用しました。CDプレイヤーはクリアーな音質の特徴を持つDP-75にするか、アナログプレイヤーに近いしっとりした音を聞かせてくれるMARANTZ CD-7にするか迷うところがありましたが、今回はDP-75を選定しました。
 最終的な300BS2システムでは、音の広がり、解像度が更に改良され、ゆったりと気持ちでクラッシクなどを聞くことが出来るとの評価を頂きました。
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