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2023.07.07

「AIとの新科学対話」で考えたこと

「AIとの科学対話」について、今後の掲載予定は次の通りです。

  • 第1話「電磁理論の歴史」(掲載済み)
  • 第2話「無線通信とラジオの歴史」(掲載済み)
  • 第3話「オーディオの歴史」(掲載予定)
  • 第4話「半導体の歴史」(掲載予定)
  • 第5話「コンピュータの歴史」(掲載予定)
  • 第6話「量子力学の歴史」(掲載予定)

 今回、第2話の「無線通信とラジオの歴史」を掲載しましたが、今までのAIとの対話で考えたことについて述べたいと思います。それぞれのAIには個性があり、応答の内容が異なる場合も多く、また、明らかに間違っている内容を主張することもありました。

その一番典型的な事例として、第2話「無線通信とラジオの歴史」の”スーパーヘテロダイン方式”の対話を取り上げます。その要点は次の通りです。

  • 1920年代から1930年代にかけてのアメリカにおいて、中波帯のラジオ受信機の方式がストレート方式からスーパーヘテロダイン方式に移った理由について、スーパーヘテロダイン方式が基本性能である感度や周波数選択性が高いという一般的な主張に終始したり、場合によっては、比較の対象外である再生式に比べて基本性能が高いと主張したりしていました。即ち、当然なことですが、AIはネットや書籍等で一般的に知られている情報を検索し、これに基づく判断しかできませんでした。しかしながら、田澤(IT)は机上ではなく実際に当時の真空管ラジオをレストアしたり調査した結果に基づき、新たな3つの理由を提示することが出来ました。
  • 田澤(IT)が実際に調査した真空管ラジオの1つであるRCA Radiola 18(1928年)はエルミネーター方式(バッテリーレス、交流方式)であるにも拘らず、Bing AIはバッテリー方式と誤った判断をしました。このようなミスは、Radiola 18の前の機種Radiola 17(1927年)までがバッテリー方式であり、おそらく、1920年代の大半のラジオがバッテリー式であるとの情報を検索し、それに基づいて判断した可能性があります。これに対して田澤(IT)は、文献でRadiola 18がアルミネーター式との記述があることを知っていた上に、実物をレストア、調査したことによりエルミネーター方式であるとの確信があった訳です。

以上の例題を基に、AI時代における教育の在り方について考えてみたいと思います。

 明治維新を発端として日本は欧米の科学技術を学び、それを利用するというキャッチアップの状態が現在まで続いています。(正確に言うと、1980年代にキャッチアップからトップランナーに変わろうとしましたが、そこで躓きました。)インターネット以前の時代では主な情報源は書物や大学の授業、そして、欧米の企業からの技術導入などでしたが、多くの人達が多くの情報を得ることにはいろいろな制約がありました。次に、インターネット時代に入ると多くの人達が多くの情報を得ることが簡単になり、検索した多くの情報に基づいて論理的に考えをまとめることが重要になりました。しかし、AIの時代の言われる現在では、人間より遥かに多くの情報を高速で検索し、検索した情報に基づき論理的に考えをまとめることが出来るAIが誕生しました。この典型が検索AIであるBing AI(Microsoft)です。つまり、得られた情報に基づき、まとめた内容を自分の考えと思い込んでいたある種の人間にとっては、その存在意義が無くなりつつあるのが現代です。このような時代に私たち人間がどのようにAIと付き合うべきかを、”スーパーヘテロダイン方式”の対話の要点に基づきまとめると次のようになります。

  • AIは既存の情報に基づき思考し意見をまとめ上げる能力に優れており、この能力においては人間は劣ります。しかし、推論したり、自ら実証することにより新たな視点を創造することは、現時点ではAIには不可能です。この人間特有の能力を向上させる教育が必要となります。
  • AIが導き出した意見は必ずしも正しいことではないので、常に批判的に検討する能力を向上させる必要があります。
  • 科学的思考において重要なことは、理屈ではなく実験や検証に基づき推論することであり、これらを体感できる教育が必要です。

那須科学歴史館で展示されているRCA Radiola 18 (実際にラジオ放送を聞くことが出来ます)

左側にある1970年代のNational製スーパーヘテロダイン方式トランジスタラジオと比べてもRadiola 18は感度、周波数選択度は申し分ないですが、体積と重さは数十倍になります。

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