ファラデーは今から200年以上昔の1791年にイギリス・ロンドンで生まれた偉大な科学者です。モーター、発電機、変圧器などの現代社会の基盤技術の基礎となる電磁誘導を発見(1831年)したことでも有名ですね。また、ファラデーは物理学だけでなく化学の分野においても多くの業績を残しています。ファラデーの著書「ろうそくの科学」は科学の啓蒙書として素晴らしく、私も子供の時に熟読しました。
しかし、ファラデーのすばらしさにはそれ以上のものがあります。それは電磁場の概念を形成したことです。それ故に私は歴史上の三大物理学者とは、ニュートン、アインシュタイン、そしてファラデーであると考え、そのことをAIと議論をしました。Bing AIはファラデーを三大物理学者に入れることに反対し、Bard AIは否定をせず、Chat GPT AIは賛成と言う結果になりました。そこで、歴史上の三大物理学者の一人はファラデーあると私が考える理由を簡単に説明したいと思います。そのために時代を遡って電磁誘導を発見した1800年代の当時の状況を考えてみましょう。
1665年、ニュートンが万有引力の法則を発見し、質点(地球や月など)間で作用する重力は空間を介することなく一瞬で作用するという遠隔作用の考えで理論構築しました。ニュートンは理論構築が比較的容易な遠隔作用の考えを用いただけかもしれませんが、それ以降の大半の科学者は全ての物質間で遠隔作用が働くことは絶対的な概念であると考えていました。1785年に電荷と電荷の間に作用するクーロンの法則を発見したクーロンも、1820年に電流により生じる磁場の法則(アンペールの法則/右ネジの法則)を発見したアンペールも同様でした。しかし、ファラデーだけは電気や磁気によって作用する力は空間を次から次へと有限の時間で伝わるという近接作用の概念(考え)を持ちました。空間はただの空っぽの入れ物ではなく、それぞれの点で電気的、磁気的な力が存在する電場と磁場であるとの概念を形成しました。しかし、当時の殆どの科学者達には理解されませんでした。
更なるファラデーの素晴らしい点は、電気から磁気に変換されること(アンペールの法則)、そして磁気から電気が変換されること(電磁誘導)から考えると、電場と磁場は本質的に同じようなものであり、電場と磁場との間には対称性の関係があると推論しました。このファラデーの考えに基づいて、1864年にマクスウェルは電磁波の存在を予言することが出来ました。電磁波の予言にはマクスウェルの天才的数学者の能力が必要でしたが、ファラデーの考えなしでは電磁波を予言することは不可能であったと思います。
21世紀の現代においても、多くの物理現象は場の概念に基づいて理論構築し説明されていますが、19世紀までの大半の科学者にとっては理解し難い概念でした。今まで当たり前だと大半の科学者が思い込んでいた遠隔作用の考えが全く新しい近接作用(場の理論)の考えに大きく変わることをパラダイムシフトと言いますが、科学の歴史においてこのパラダイムシフトは、度々、起きています。科学史上の大きなパラダイムシフトとは、ニュートンの万有引力であり、アインシュタインの時空と重力場、そしてファラデーの電磁場の概念であると私は考えています。そして、21世紀に大きな科学変革が生じる可能性があるとも私は考えています。私には無理かもしれませんが、将来の科学者になる人達はこれから起こるであろうパラダイムシフトを目撃することが出来るかもしれません。
那須科学歴史館 館長 田澤勇夫
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