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2021.01.25

蓄音器から始まるオーディオ技術の歴史

蓄音機の概略史

 1877年にエジソンが円筒型蓄音機を発明したことによりオーディオの時代の幕が開けました。そして10年後の1887年にベルリナーが円盤式蓄音機を発明しました。

 エジソンは音の再生だけでなく録音機能を重要視し9項目にわたる蓄音機の用途を提案しました。これに対してベルリナーは音楽再生に的を絞りました。そして時代の流れはベルリナーの方向へと大きく舵を取っていきました。

ベルリナーはジョンソンたちとビクターを設立し、改良とともに新たな蓄音機を世に送り出しました。1911年にはホーン内蔵型のVictorola VV-4が誕生し、1926年には名機と言われているCredenza、そして1927年にはVV.1-90が誕生しました。これに対してエジソンも改良を重ね1915年には円盤型蓄音機のダイヤモンドデスクを世に出しましたが、その後はベルリナーとの開発競争に敗れるような形で徐々に製造が縮小されていきました。

CredenzaやVV.1-90が誕生する前の録音方法はホーンで収音するアコースティック録音(機械式録音)でしたが、マイクによる電気録音に代わったことで音質が格段に向上しました。その後、再生も電気で行うElectrola、ラジオも聞けるRadioraも誕生しました。1930年代に入ると時代の流れが蓄音機からラジオに移っていきました。

那須科学歴史館 展示品
Edison Model B
1905年
Clombia Type BK
1906年

Amberola Model30
1915年
Diamond Disc
1919年
Victorola VV-4
1911年
ニッポノホン ユーホン1号
1911年
VV.1-90
1927年
HMV 102 No.5B
1929年

Victor Victrola Credenza 中期型 1930年頃

1940年以降のオーディオの概略史

  1948年のLPモノラル・レコードの誕生によりオーディオ技術の大きな変革が生じました。従来の蓄音機の円盤型レコードはSP(Standard Playing)と呼ばれレコードの回転数が78rpmと速いため、12インチのレコード盤でも録音時間が5分以内と短いものでしたが、回転数が33rpmのLP(Long Playing)レコードの登場により20分程度の録音時間も可能となりました。その際、録音方式がレコード原盤へのダイレクト・カッティング方式から磁気テープへの録音方式に代わりました。また、レコード素材が天然樹脂のシェラックから合成樹脂のビニールに変わることによりノイズが大幅に低減することができました。そして、1958年にはステレオ・レコードが登場し本格的なHiFi( High Fidelity)の時代となりました。

 そして、1982年にはデジタル・オーディオのCDプレイヤーが登場しました。最初は冷たく硬い音などと音質を問題視されましたが、その後、いろいろな改良が重ね現在に至っています。

資料「マイクロスコープによるレコード・蓄音機針の観察について」(pdf.ファイルにリンク

資料「オーディオ技術とJAZZの変革の歴史の連動性について」(pdf.ファイルにリンク

資料「レコードについて」(pdf.ファイルにリンク

資料「CDプレイヤーについて」(pdf.ファイルにリンク

電気蓄音機の歴史と技術について

電気蓄音機の概略史

 電気蓄音機(電気再生)の歴史に先立ち、電気録音の歴史についてですが、1920年にアメリカで公共ラジオ放送が始まった時、ATT(American Telephone &Telegraph|)のベル研究所が電気録音の研究を開始しました。そして、1924年、ベル研究所の傘下のWE(Western Electric)に電気録音技術の特許が与えられ、1925年にVictorにより最初の電気録音によるレコードが誕生しました。

 次に電気蓄音機について、1916年からアコースティック蓄音機(機械式)の製造を行っていたBrunswickは1924年からアコースティック蓄音機にRCAのラジオRadiolaを搭載し、ラジオも聞ける蓄音機を製造しました。そして、1926年にマグネチック・ピックアップ(ケロッグのバランスッド・アーマチュア型と推定)とマグネチック・スピーカーを搭載した最初期の電気蓄音機 Brunswick Panatrope PR-6が誕生し、Radiolaを搭載したBrunswickの電気蓄音機が数多く製造されました。

 また、VictorもRCAの技術協力を得て、1926年頃から電気蓄音機Electorola, ラジオ付き蓄音機Radiolaを製造しましたが、経営不振に陥ったVicotorがRCAに吸収される形で、1929年にRCAの子会社としてRCA Victorが誕生しました。しかし、1930年前後に始まった世界恐慌、そして、1939年から始まった第2次世界大戦により、蓄音機の市場も大きく縮小していきました。そして、日本においては1928年にRCA Victorの電気蓄音機U-107, 109の輸入が最後となり、それ以降は輸入禁止となりました。

・資料「いろいろなポータブル(電気)蓄音機」(pdf.ファイルにリンク)

SPレコードの録音技術

 録音技術の変化、発展は主にその周波数帯域で見ることが出来ます。

 最初のSPレコードへの録音はアコースティック(機械式)録音であり、その周波数特性は100Hz~2kHzが限度で高域がのびないものでした。そして、1925年に登場したマイクによる電気式録音により周波数帯域が50Hz~6kHzに大きく改善されました。更に、1929年にはRCA Victorにより周波数帯域が30Hz~8kHzまで広がり、SPレコードの音質が改善されました。

 最終的には1945年に英国デッカのFFRR(Full Frequency Range Recording)技術により録音周波数の上限が12kHzまで拡大し、その後のLPレコードや現代のHiFi(High Fidelity)技術に引き継がれていきました。

ピックアップ(カートリッジ)の技術

 電気蓄音機用の最初のピックアップは、1924年にGEのケロッグにより特許申請されたバランスッド・アーマチュア型(MI型※1)で、その後、RCAのケンダルにより発明されたコブラ型ピックアップ(※2)に採用されました。

※1:MI(Moving Iron)型はMM型のように小さなマグネットを直接動かすのではなく、固定された強力なマグネット(当時は馬蹄型)を配置し、それから可動鉄片を誘磁する構造。 MM(Moving Magnet), MC(Moving Coil)

※2:ピックアップ中心を通る縦軸心から充分に離した2個のバランスした錘を設け、大きな慣性能率を持たすことにより各種の振動に対して共振をおこさなくさせる構造。よって、錘を配置した部分が横方向に大きく膨れる構造になっているためコブラ型と呼ばれています。コブラ型ピックアップはVictorの多くの電気蓄音機に採用されていました。

例えば、RCA Victor M-310(1936), 日本ビクター JT-5(1932), JRE-47(1934), RE-48(1937), ARE-50, 51(1948)など

Victor コブラ(那須科学歴史館 展示)
図上の30(左右2か所)が錘

スピーカーの技術

 スピーカーの原型は、1879年にエジソンが考案した同時に複数人が聞くことが出来る受話器と言われています。また、コーン型スピーカーの原型は1910年のブラウンによるムービングコイル型のスピーカーであると言われています。

 1924年のWE-540Aはマグネチック・スピーカーの原型であり、その周波数帯域は100Hz~2kHzと狭いものでした。那須科学歴史館が所有しているRCA Radiola Loud Speaker Model 100とBrunswick Model Aは最初期のマグネチック・スピーカーです。

 1925年にRCAのケロッグがダイナミックス・スピーカーを発明し、RCA-105型ダイナミック・スピーカーが誕生しました。当時は磁石の代わりに電磁石を用いた励磁型(フィールド型)で、那須科学歴史館には当時の励磁型スピーカーを数多く展示しております。(※3)

※3:Magnavox Dynamic 80, Magnavox 411B(1926年), Jensen A-12(1936年)など

 Magnavox社とは1917年にジェンセンらによって設立されたアメリカの音響機器メーカーで、また、Jensen社とはジェンセンによって1925年に設立されたアメリカの音響機器メーカー。

Brunswick Model A(那須科学歴史館 展示)
RCA Radiola Loud Speaker Model 100(那須科学歴史館 展示)

Magnavox Dynamic 80(那須科学歴史館 展示)

Magnavox 411B(那須科学歴史館 展示)
参考文献
  • 「フォノ・カートリッジ大全」 海老沢徹 アイエー出版
  • 「盤塵集(音の姿を求めて)」 池田圭 ラジオ技術社
  • 「Radiola The Golden Age of RCA」 Eric P. Wenaas Sonoran
  • 「無線と実験 ラジオ放送開始より電気蓄音機まで 1924-1935」 誠文堂新光社 
  • 「オーディオの一世紀」 山川正光 誠文堂新光社
  • 「レコードの世界」 岡俊雄 音楽之友社
  • 「電気蓄音機の設計組立と修理」 無線と実験 誠文堂新光社
  • 「図説 世界の蓄音機」 三浦玄樹 星雲社

実際に見たり、触ったりしていただきながら、歴史と科学を交えた解説とともに体験をしていただけます。

オーディオの歴史に関するAIとの新科学対話

対話の項目は

  • エジソンとベルリナーの蓄音機開発競争
  • 蓄音機の機械式と電気式録音
  • CDプレイヤーとハイレゾ
  • LPレコードの誕生
  • 高音質の科学

 対話を読んで頂ければ分かりますが、オーディオに関することを科学的に検討することは難しい面があります。それはAIとの対話でも明らかな傾向があります。Chat GPTはまともな返答が出来ず、早々に離脱しました。Bingはオーディオについて非常に興味があり、対話を続けているとある種のオーディオ・マニア的返答をします。ネット上で、オーディオ・マニアと対話したいと思う方にはお勧めです。楽しいとは思います。しかし、IT(田澤)の目的はあくまでも科学的視点からの対話です。残念ながら、Bingは対話したい議題から度々、ずれていきました。また、一部の偏った情報に基づいて主張している傾向もありました。また、Bardは常に冷静な返答をしていました。AIと言えども個性があり、大変面白い対話になっているのではないかと思っています。

対話と関連資料に関する内容は下記の資料よりダウンロードして下さい。

 ・オーディオの歴史に関するAIとの新科学対話 (対話のpdf.ファイルにリンク)(関連資料のpdf.ファイルにリンク

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